日弁連のファクタリング方式を利用した個別信用購入あっせんの適正な規制

第1 意見の趣旨
1 経済産業省は、販売業者が購入者等に対し取得する割賦販売債権を、あらか
じめ提携関係にある債権買取り業者に対し購入者等の異議なき承諾を付して直
ちに債権譲渡し、当該債権買取り業者においてその債権回収業務(以下「ファ
クタリング」という。)を行う取引は、割賦販売法の個別信用購入あっせんの定
義に該当することを周知徹底するべきである。
2 経済産業省は、ファクタリング取引を業として行っている事業者に対し、速
やかに取引実態の調査把握を行った上で、割賦販売法に基づく適正な規制を行
うべきである。
3 経済産業省は、ファクタリング取引を業として行っている事業者において、
過剰与信防止義務(割賦販売法35条の3の3、同条の3の4)、不適正与信防
止義務(同条の3の5、同条の3の7)の履行が確保されるよう、現行法の解
釈を明確化すべきである。
第2 意見の理由
1 ファクタリング方式を利用した個別信用購入あっせんの現状
訪問販売業者等が、個別信用購入あっせん契約(以下「個別クレジット」と
いう。)を利用して悪質商法を繰り返す被害実態に対し、悪質商法を助長するク
レジット会社の責任を強化するため、割賦販売法平成20年改正は、従来から
規定されている抗弁接続規定(同法35条の3の19)のほか、訪問販売等に
よる商品等の販売取引に対し与信を行う個別信用購入あっせん業者に対し、過
剰与信防止義務(同条の3の3、同条の3の4)、不適正与信防止義務(同条の
3の5、同条の3の7)、業務運営の適正化義務(同条の3の20)、契約書面
交付義務(同条の3の9)、個別クレジットのクーリング・オフ(同条の3の1
0)、過量販売解除(同条の3の12)、不実告知等の取消し(同条の3の13)
など厳しい法規制を加えた。
これを受けて、個別信用購入あっせん業者は、個別クレジットを利用してト
ラブルを繰り返す悪質販売業者との加盟店契約関係を打ち切るなど、被害防止
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対策が進んできた。
ところが、近年、販売業者自身が商品販売代金を割賦払いとする自社式割賦
販売契約(同法2条1項)を締結するとともに、同契約条項の中に購入者の異
議なき承諾を定めておき、あらかじめ提携関係を結んだ債権買取り業者に対し
直ちに債権譲渡し、債権買取り業者においてその割賦販売債権の回収業務を行
う、いわゆるファクタリング方式を利用した個別信用購入あっせんが横行して
いる。
これらの債権買取り業者は、割賦販売法2条4項の個別信用購入あっせんに
は該当しないと主張し、一般の個別信用購入あっせん業者が加盟店契約を打ち
切るような悪質販売業者との間で提携関係を結び、消費者と販売業者との間で
トラブルが生じても、抗弁接続(同法35条の3の19)は適用されないと主
張して、割賦販売代金債権の請求を継続するという被害が繰り返されている。
こうした脱法的取引形態が放置されるならば、自社式割賦販売契約と債権譲
渡契約を組み合わせることにより容易に割賦販売法の諸規制を脱法することが
可能となり由々しき事態である。
2 ファクタリング取引の仕組み
ファクタリングと称される取引は、次のような仕組みである。
(1) 債権買取り業者A社と販売業者B社は、あらかじめ販売業者B社の購入者
又は役務の提供を受ける者(以下「購入者等」という。)に対する割賦販売債
権を一定の与信枠で買い受ける「包括的債権譲渡契約」と称する提携関係を
結ぶ。
(2) 販売業者B社は購入者等に対し、商品等の販売代金につき自社割賦販売契
約を締結し、その契約条項には、「販売業者が購入者に対して取得した割賦販
売代金債権を第三者に譲渡することをあらかじめ異議なく承諾する」旨の条
項が記載されている。債権買取り業者A社の氏名は記載されていない。
(3) 販売業者B社は、売買契約締結後まもなく(第1回支払期日までに)、債権
買取り業者A社に割賦販売債権を譲渡し、譲渡代金(売買代金から一定の割
引を行った金額)を受領する。
(4) 債権買取り業者A社は、購入者等から割賦販売債権の割賦弁済を受け始め
る。
(5) 債権買取り業者A社のほかに、購入者等の信用情報を調査するため、信用
情報機関に加盟している別の与信業者が関与しているケースもある。
以上の手順で債権譲渡が行われた後、購入者等が販売業者B社との間の契約
について解除、取消し等の苦情を申し立てた場合、債権買取り業者A社は、個
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別信用購入あっせんには該当しないから抗弁接続は認められない、債権譲渡の
異議なき承諾によって譲渡人である販売業者B社に対する抗弁は切断されるな
どと主張し、譲受債権の取立てを継続する。
3 個別信用購入あっせんの定義
経済産業省商務情報政策局取引信用課編『割賦販売法の解説(平成20年版)』
46頁では、割賦販売法2条4項における個別信用購入あっせんの定義に関し、
「①特定の販売業者等からの、②商品等の購入等を条件として、③(代金等に
相当する額を)当該販売業者等に交付し、④(当該額を)受領するという基本
要件で構成されている」とした上、①「『特定の販売業者等からの』とは、どの
販売業者等からも商品等の購入等が可能となるものではなく、特定された販売
業者等でのみ商品等の購入等が可能となるものであり、具体的には、あっせん
業者と加盟店契約を締結しているか、また、加盟店契約がなくとも、あっせん
業者と販売業者等の間に密接な牽連性があるか否かがメルクマールとなろう」、
②「『商品等の購入等を条件として』とは、商品等の購入等が信用供与契約にお
いて条件とされていることであり、例えば、信用供与者が当該信用供与によっ
て商品等が購入されることを全く認識していない場合などは、この要件を満た
すとは言えないと考えられる」、③「『当該販売業者等に交付し』とは、通常、
物品等の交付に関しては、代理人や使者等を通じた場合であっても、当該法令
ないし契約上予定されている者に当該物品等が到達すれば、『交付』したものと
考えられており、・・・金銭の交付に関しては、金銭は価値しかないことから、
代理人や使者等に手交した金銭と同価値の金銭が、それらの者を通じる等して
本人に到達すれば、それで『交付』したと考えられる」と解説されている。
また、「割賦販売法上の割賦購入あっせんは、『契約形態としては、①債務引
受(立替払)型、②債権譲渡型、③保証委託型等が存在する』こと等から、前
述のとおり、あっせん業者が販売業者等に代金等に相当する額の『交付をする
とともに』、利用者等からあらかじめ定められた時期までに代金等に相当する額
を『受領すること』という、あっせん業者が販売業者等に立替払いをした後に、
購入者等から金銭を受領する取引形態に着目して定義されており、その契約形
態には触れられていない。・・・割賦購入あっせんについてこのような定義の方
法が採用されたのは、現実にこの定義に該当するとすべき取引が種々の法律構
成(契約形態)をとって存在し、そのいずれかに偏して定義付けを行うと、容
易に脱法が可能となることから、実質的に同様の経済的効果をもたらす取引の
行為自体に着目したものである」とされている。
4 ファクタリング取引の個別信用購入あっせん該当性
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割賦販売法の個別信用購入あっせんに該当するか否かは、上記の割賦販売法
2条4項所定の定義ないし要件に該当する取引実態が認められるか否かによっ
て判断されるものであり、その契約形態が債権譲渡契約であった場合でも、個
別信用購入あっせんに該当し得ることは明らかである。
ファクタリング取引は、次のとおり、個別信用購入あっせんの定義に該当す
る取引である。
(1) 販売業者と債権買取り業者との間には、あらかじめ包括的債権譲渡契約が
存在しており、売買代金の回収に関する密接な牽連関係が存在する。
(2) 商品購入等を条件とする代金債権の譲渡であることは、販売業者と債権買
取り業者との間の取引関係で明確にされており、販売業者の割賦販売契約書
原本を債権買取り業者に引き渡すこととされている。
(3) 商品売買代金相当額を、債権譲渡代金名目で、債権買取り業者から販売業
者に振込送金により交付している。
(4) 割賦販売代金債権を第1回支払期日前(期限の利益喪失前)に譲渡するこ
とにより、債権買取り業者は2か月を超える後払いの方法により分割弁済を
受けている。
なお、この点に関し、ファクタリング取引においては、債権買取り業者と購
入者等との間の個別信用購入あっせん関係受領契約の存在が認められないから、
個別信用購入あっせんに該当しないという見解も存する。しかし、そもそも割
賦販売法2条4項は、契約形態の如何を問わず、個別信用購入あっせんに該当
し得ることを明示した規定であって、個別信用購入あっせん関係受領契約の存
在はそもそも要件となっていない。平成20年改正によって、個別信用購入あ
っせん関係受領契約の存在を前提とするようにも読むことができる、クーリン
グ・オフ、過量販売解除、不実告知取消等の規定が設けられたが、そのような
改正にもかかわらず、個別信用購入あっせんの定義(同法2条4項)自体には
変更はないものであって、債権譲渡型の個別信用購入あっせんが割賦販売法の
規制対象であることは明らかである。
そして、ファクタリング取引が、上記のとおり、債権譲渡型の個別信用購入
あっせんの定義に該当する場合には、割賦販売法の適用を受けることになり、
個別信用購入あっせんにおける抗弁接続規定(同法35条の3の19)が適用
される。抗弁接続規定は強行規定(同条の3の19第2項)であり、抗弁の切
断をもたらす「異議なき承諾」の特約は無効である。したがって、購入者等は、
販売契約に係る販売業者に対して生じている事由をもって、債権買取り業者に
対して対抗することができる。
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このような結論は、割賦販売法が、個別信用購入あっせんを定義する上で、
その契約形態の如何を問わないものとし、債権譲渡型の個別信用購入あっせん
を規制対象としていることの当然の帰結である。
よって、前述のような仕組みのファクタリング取引は、債権譲渡型の個別信
用購入あっせんに該当するものであり、当然、抗弁の接続(割賦販売法35条
の3の19)の適用があることを、「割賦販売法(後払分野)に基づく監督の基
本方針」や「割賦販売法の解説」などにおいて明らかにし、周知徹底させるべ
きである。
5 経済産業省による適正な規制の実施
また、経済産業省は、ファクタリング取引を業として行っている事業者の法
令違反により購入者等の利益が害される事態に対し、立入検査(割賦販売法4
1条1項)・報告徴収(同法40条3項)等の権限を適切に行使して実態を把握
し、速やかに違反行為の是正措置を講ずるべきである。
6 法解釈の明確化
過剰与信防止義務(割賦販売法35条の3の3、同条の3の4)、不適正与信
防止義務(同条の3の5、同条の3の7)については、いずれも「個別信用購
入あっせん関係受領契約」との文言があるため、必ずしもこのような契約を予
定していない、債権譲渡型の個別信用購入あっせんを行う与信業者が、これら
の義務の履行の責めを負うのかどうかについて、疑義を生じる余地がある。
しかし、これらの義務は、個別信用購入あっせんにおける購入者等の保護と
業務の適正確保の趣旨から導入されたものであり、個別信用購入あっせんに該
当する行為がいかなる法形式をもってなされるかによってその適用が左右され
るべきものではない以上、債権譲渡型の個別信用購入あっせんを行う与信業者
においても、その履行が求められるものである。
すなわち、上記各条文における義務は、個別信用購入あっせん契約に通有す
る消費者との間に不適正な契約が生じうる危険性に鑑みて課されているのであ
って、個別信用購入あっせん関係受領契約を伴わないファクタリング業者の場
合であっても、個別信用購入あっせん契約に該当する以上その危険性とそれに
対する規制の必要性は何ら変わりがない。
上記各条文が、「個別信用購入あっせん関係受領契約を締結しようとすると
きは」としているのは、単にその義務を課す時点を明確化したに過ぎず、かか
る契約の存在が義務の前提としての不可欠の要素として規定したものとは解釈
しえない。ファクタリング業者についても、個別信用購入あっせんに該当する
以上、販売業者等から代金債権を取得するに際して、同様の義務が課せられて
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いるというべきである。
そこで、個別信用購入あっせん業者のうち、債権譲渡型の個別信用購入あっ
せん(ファクタリング取引)を業として行っている事業者においても、過剰与
信防止義務(割賦販売法35条の3の3、同条の3の4)、不適正与信防止義務
(同条の3の5、同条の3の7)の遵守が確保されるよう、経済産業省は、上
記「割賦販売法(後払分野)に基づく監督の基本方針」等により、以下のよう
に現行法の解釈を明らかにすべきである。
(1) 過剰与信防止義務(同法35条の3の3、同条の3の4)について
個別信用購入あっせん業者は、個別信用購入あっせん関係受領契約を締結
しようとするときは、個別支払可能見込額の調査義務を負い(同法35条の
3の3)、購入者等の支払総額のうち1年間に支払うこととなる額が個別支
払可能見込額を超えるときは、原則として、当該個別信用購入あっせん関係
受領契約を締結してはならない(同条の3の4)。
この点、債権譲渡型個別信用購入あっせんの場合には、ファクタリング業
者は、販売業者等との間の債権譲渡契約に基づいて販売業者等に代金相当額
を交付しようとするとき、又は、販売業者等から代金債権を取得するに先立
って、購入者等の個別支払可能見込額の調査義務を負い、購入者等の支払総
額が個別支払可能見込額を超える場合は、債権譲渡契約に基づき販売業者等
に代金相当額を交付し、又は、販売業者等から代金債権を取得してはならな
いと解釈すべきである。
(2) 不適正与信防止義務(同法35条の3の5、同条の3の7)について
個別信用購入あっせん関係販売業者又は個別信用購入あっせん関係役務提
供事業者(以下「個別信用購入あっせん関係販売業者等」という。)は、個
別信用購入あっせん関係販売契約又は同役務提供契約の申込み又は締結の勧
誘に際し、不実告知等の不適正与信を調査する義務を負い(同法35条の3
の5)、不適正与信をしたと認めるときは、個別信用購入あっせん関係受領
契約の申込みを承諾してはならない(同条の3の7)。
この点、債権譲渡型個別信用購入あっせんの場合には、ファクタリング業
者は、債権譲渡契約に基づいて個別信用購入あっせん関係販売業者等に代金
相当額の交付をしようとするとき、又は、代金債権を取得しようとするとき、
これに先立って個別信用購入あっせん関係販売業者等による不適正販売行為
を調査する義務を負うと解すべきである。
以上

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